平成4年7月、創業者である父からバトンタッチ。
堅実第一の経営方針の下、銅合金・アルミ・ステンレスなどの精密加工、および販売を手掛ける。
素材作りから組立までの一貫生産体制で、〝松井ならでは〟と評価される信頼のある製品作りを展開。年々多様化する精密加工の需要にきめ細かに対応し、多品種少量生産で多方面の分野の要求に応える。
松井工業株式会社 オフィシャルサイト
http://www.matsui-kogyo.co.jp/
「技術力を結集した松井ブランドが続々」
NC旋盤や最新鋭の複合機、マシニングセンターなどの製造機械が80台以上並ぶ工場内。これだけの製造設備を備え、素材作りから精密加工、熔接、プレス、組立までを一貫生産できる工場は、この界隈でも数少ない。そして、この現場から様々な製品が産み出されてきた。どこかで目にしたことのある Mマークのボールバルブは、松井研次氏が入社して間もない頃に開発された松井ブランドの代表作だ。それまでのボールバルブにはインチサイズより小さな管径のものがなく、市場のニーズに応えるべく、ミニチュアサイズを作り上げた。それまでにない高度な気密性を実現したシール機能を持ち、意匠登録を受けた製品だ。
最近では、アオコの発生により悪化した水質を浄化する装置を、知識者と共同開発し、奈良県の室生ダムや京都清水寺、熊取町長池で稼働中だ。また、東京の建築会社からの依頼で、壁面補修用ガンを開発。奥までコーキング剤が浸透しにくい、深い亀裂にも対応できる特殊な抽入機で、特許を取った。このように、単に加工のみに留まらず、製品の用途を考えた上でのオリジナルパーツや自社製品を開発・設計し、見えないものを見える形に創造している。
「機械+人間の力が産み出す高品質」
「こうした一貫生産システムが我が社の強み。お得意様には便利というメリットがあり、松井に任せておいたら全部出来てくる!という信頼感を頂いています」と松井氏。製造業は何と言ってもモノを作ることの技に長けていないと、他社には勝てない。しかし、それは単に機械を動かすだけでは達成できない。3M(Man+Machine+Material)の要素がうまく重なりあってこそ成し遂げるもの。鍛えられた人間の能力・五感をプラスすることで、より高い水準の製品が産み出される。いわば機械の力と人間の能力の融合が松井工業の大きな力だ。
松井氏曰く「うちは技術者の集団ではなく、今はまだ、技能者の集団です」。技術は新しいシステムが出来る度に変革するが、技能は受け継いでいける。その為いかに異種の仕事がたくさん経験できるかが重要だ。あらゆる加工経験を自分の技能とし、お客様が要求する品質を全うするためにはどのように作りこんでいくかを考える。さらに、汎用系の機械をさらに細かいお客様のニーズに応えるべく、松井仕様にカスタマイズする。そうしたきめ細やかな作業の積み重ねが、〝松井ならでは〟の製品作りであろう。
「超精密化を図り、オンリーワンの会社を目指す」
父の後姿を見て育ち、自然と製造業への道のりを歩んできたが、若かりし頃には、最新の 設備導入を巡り、父とぶつかった日もあった。「当時は言いたいことを言っていたが、近時では、父と同じかな・・・」と思う。会社経営に関しては「好きなようにやれ」と言う父だが、「わが社のコンプライアンスはきちんと全うしろ」と言われている。経営者として、社員とは雇用の上で、そしてお客様とは製品に対する約束を守ることが絶対だ。「納期・価格・品質」の3つの柱を大切に、父から引き継いだ堅実第一の精神で、日々企業努力を惜しまない。「今後も超精密化を図り、他社にはないものを追求し、オンリーワンと言われる会社を目指したい」。新しい素材、新しい加工方法への模索は尽きることなく、可能性はまだまだ広がりそうだ。
「ローテクが最先端を支えていることを忘れてはいけない」
生まれ育った生野は、互いの顔が見合えて声を掛け合える、住みやすい町。この地で多彩なモノづくりの会社があることを知ってもらおうと、「東成・生野モノづくりフェスタ」の実行委員としてアピールに努めている。「製造業のイメージが悪ければ、そこで働いている皆さんに申し訳ない。製造業が何?なんていい加減な事を言ってほしくない」と憤慨する松井氏。「これがなかったらこの機械が出来へん、世の中が回っていかへんという事がたくさんあるんです。中小企業の町にもっと陽を当ててもらわないとあかん。最先端だけが仕事ではありません。ローテクが最先端を支えていることを忘れてはいけない」。この力強い言葉に、モノづくりの現場で働く誇りが光り輝いた。